『あそこの席』

林田力

山田悠介『あそこの席』（幻冬舎文庫）はホラー小説である。書名と同じタイトルで映画化されている。

主人公の瀬戸加奈は、希望高等学校に転校生としてやってきた高校2年生である。家族は父と母と妹のウララの4人暮らし。加奈は転校初日から裕樹、大輔、圭輔、淳子の4人と友達になるが、加奈の座席には呪いの席という噂があった。過去に加奈の席に座った生徒は自殺したり、ノイローゼになったりしていた。加奈も盗撮などの嫌がらせを受ける。

本書はホラー小説に分類されるが、オカルト的な怪奇さは乏しく、早い段階で人為的な犯罪であることが分かる。「呪いのビデオを見たら死ぬ」というような話とは異なる。唯一、ラストがホラーになっている。

本書で恐ろしいものは異常な人間であるが、それ以上に異常な人間に従って犯罪に荷担する周囲の人間が恐ろしい。異常な人間に脅されて、彼を恐れて従う状況には、あまりリアリティーを感じない。一方で、学校のイジメやブラック企業のパワハラは加害者を放置する周囲にも問題があるとも指摘されており、意外とリアリティーのある話かもしれない。

主人公は強い人間でも特別に強い人間でもなかったが、加害者の思い通りに動かなかったために、加害者は暴走していった。おかしいことをおかしいと声をあげることが大切である。

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