『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』2chも格差社会

林田力

黒井勇人『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』(新潮社、2008年6月27日発売)はインターネット掲示板「2ちゃんねる」(2ch)のスレッドを書籍化した作品である。中卒ニートの主人公「マ男」が母の死をきっかけに一念発起して就職したIT企業での過酷な体験を描いた作品である。出版社がスレッド文学と位置付けているとおり、全編2chのスレッドの書き込みを書籍化した形になっている。

2chの書籍化という点では『電車男』と同じであるが、趣は異なる。『電車男』では電車男がエルメスとのデートの場所などについて相談するために掲示板を利用した。掲示板のやり取りが、物語を形成する軸になっている。電車男とスレ住人の共同作業によって生まれた物語である。故に『電車男』ではスレッドの書き込みを、そのまま書籍化する意味があった。

これに対し、本書はスレ主であるマ男の体験談が中心である。それ以外の住人の書き込みは体験談に対する感想や突っ込みであり、ストーリー展開を左右するものではない。この点でスレッド文学の形式を採る必然性はない。むしろストーリーが実に面白く作られており、一般の小説形式でも十分に楽しめる水準である。このような作品が2chから生まれた点に、匿名掲示板の文化発信力の高まりが感じられる。

本書はタイトルや出版社の紹介文を読む限り、ブラック企業の過酷な労働環境をテーマとしたものと受け取ってしまいがちである。その種の描写が多いのは確かであるが、むしろ本題は主人公の職業人としての成長を描くことにある。

実際のところ、マ男は飲み込みが早く、かなり優秀な人物である。本書が示すように文才もある。高校中退で就業経験なしという設定が嘘臭く思えてしまうほどである。また、ブラック企業といいつつ、かなりスキルの高い同僚もいる。最底辺の職場の苦しみというよりも、ソフトウェア開発現場の実態を誇張しつつも生々しく描いたところが共感を集めたのではないか。

従って格差社会・ワーキングプア・過労死などの問題意識から本書を読むならば肩透かしとなる。ポテンシャルのある人物が厳しい環境に揉まれて成長したという成功物語ではワーキングプアへの応援歌にはならない。

むしろ苛酷な労働環境を生む社会的矛盾から目をそらし、本人の頑張りで克服するという教訓を導き出すならば、悪しき日本的精神論に堕していると批判の対象になる。それは本物のワーキングプアやニートを、ますます絶望に追い込むだけである。

秋葉原通り魔事件で逮捕された加藤智大容疑者は匿名掲示板で行った殺人予告に対し、反応がなかったために「無視された」と感じたという。一方で本書のような面白い内容ならばレスがつくし、反響が大きければ書籍化までされる。匿名掲示板は誰でも書き込めるが、皆が同じ匿名者として平等に扱われる訳ではない。

例えば2chでは企業への告発情報が溢れかえっているが、ほとんどが見向きもされない。一方でマンションの売買代金返還訴訟を契機とした東急リバブル・東急不動産への批判は裁判の枠組みを越えて大きく広がり、ビジネス誌に炎上と紹介されるに至った(「ウェブ炎上、<発言>する消費者の脅威−「モノ言う消費者」に怯える企業」週刊ダイヤモンド2007年11月17日号39頁)。

考えてみれば当たり前であるが、書き込み内容に価値がなければ反響を呼ぶことはない。現実社会から疎外されている人が匿名掲示板だから受け入れられるとは限らない。読み手が価値ある書き込みと、つまらない書き込みを同列には受け取ることはない。それは匿名掲示板でも同じである。むしろ、書き手のブランドが通用しない匿名掲示板だからこそシビアに内容で評価される。

ともに苛酷な職場環境への不満を出発点としつつ、書籍化までされたマ男と、匿名掲示板からも疎外された加藤容疑者の落差は大きい。現実社会から疎外された人が匿名掲示板からも疎外されたということは精神的に大きなショックだったのではないか。2chもまた、格差社会の一翼を担っているという現実を実感した。


     
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