『アクアマリンの神殿』
海堂尊『アクアマリンの神殿』は桜宮サーガの一作である。『モルフェウスの領域』の続編である。主人公は中学生の佐々木アツシである。作中で高校生に進学する。コールドスリープ技術により人工的な眠りにつき、五年の時を超えて目覚めた少年である。桜宮サーガの魅力は子どもっぽいところもある大人の駆け引きである。それが本物の子ども達の学園物語になると、あまり魅力的ではなくなる。北原野麦のぶっ飛んだ性格は面白かったが。主人公に最も近い大人が主人公を「坊や」呼ばわりし、正面から向き合わず、魅力に欠ける人物であることも影響している。それでも最後の対決は迫力がある。
個人の自己決定権が何より大切である。他人が勝手に忖度して良いものではない。桜宮サーガは医者の作品であり、所々に患者よりも医者本位、医者の独善を感じるところもある。その点では本書が本人の自己決定権の尊重を結論としていることは素晴らしい。ラストも桜宮サーガの中心人物のその後が分かり、ほのぼのする。
主人公自身が関心を持っていたのに美少女から関心を持たれる展開はベタである。『輝天炎上』の天馬大吉と重なる。海堂尊と言えば医療ミステリーの旗手であり、死因不明社会と社会問題に問題意識を持つ社会派という感じがあるが、学園ラノベ風も書ける点は以外である。桜宮サーガでは田口公平と速水晃一、島津吾郎の同期のつながりなど著者は医学部の人間関係を詳細に描いている。その視点は医学部以外の学校生活にも展開されている。
『スリジエセンター1991』
林田力
海堂尊『スリジエセンター1991』(CERISIER CENTER 1991)(講談社、2012年)は桜宮サーガの一作である。過去の物語であり、『ブラックペアン1988』『ブレイズメス1990』の続きである。視点人物は研修医四年目の世良雅志である。主役と称すべきは天城雪彦という天才的な技術を持ち、高額な治療費をとるブラックジャック的な外科医である。日本の古い体質の医療界に波乱を起こす。既得権益を維持したい大学教授との交渉で要求を認めさせるシーンは笑える(197頁以下)。本書では桜宮サーガの登場人物の若い頃が描かれる。ジェネラル・ルージュの速水晃一は新人医師であるが、この頃から規格外である。これに対して花房美和看護婦は初々しく、ハヤブサのイメージにはならない。スカムラージュこと彦根新吾は医学生として登場する。彼の思想遍歴を垣間見ることができて面白い。
腹黒タヌキの高階権太は新進気鋭の講師である。本書では露骨な陰謀、追い落とし工作を展開する。バチスタ・シリーズのイメージが強いために高階は頼れる味方という先入観があったが、本書では感情移入できない。やっていることは足を引っ張ることである。それによって患者の命まで危うくする。しかも、裏切っておきながら、最後はいい人ぶって後継者の地位を欲しがることは虫が良すぎる。
古い精神主義が支配する日本では不利な条件を跳ね除けて成功することに価値があるかのような意識があるが、それはフェアな競争ではない。そのような状況で最高のパフォーマンスが発揮できる筈がない。天城の失望は正当である。
高階の思想は「経済原理優先・金持ち優遇の医療はけしからん」という典型的な建前論で深みがない。既得権益を破壊しようとする天城の方が魅力的である。今風の議論では天城が新自由主義となりそうであるが、天城は都合が悪くなると武力に訴えるアングロサクソン流を嫌っている。
「私もアングロサクソンの利益至上主義にはうんざりしています。意のままにならないと駄々をこね、武力に訴え自分の主張を通す新興国の精神は、私の対極にあります」(67頁)。官僚主導の国家社会主義的な観点から新自由主義を批判するのではなく、新自由主義思想の内実を理解する必要がある。

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