『1枚の「クレド」が組織を変える！』

林田力

実島誠『1枚の「クレド」が組織を変える！』（実務教育出版、2015年）はクレドの意義や効用を述べ、作成法や運用方法を紹介する書籍である。著者は税理士事務所の経営者で、実際にクレドによって効果を得た実体験を語っている。一方でリッツ・カールトンの事例のようにクレドのオーソドックスな話も押さえている。

本書は、クレドはマニュアルと異なると指摘する。マニュアルは一定の行動をルールとして規定する。これに対してクレドは価値観に働きかける。「マニュアルは、一定の状況を定義しているので、それ以外の状況には答えがなくなってしまうのに対し、優れた価値観を持っていれば、どんな状況でも、クレドの価値観に沿って、自ら考え行動できるようになります」（42頁）。

これは現代日本で強く求められていることである。何故ならば法律に違反していなければ何をやってもいいという考えが蔓延しているためである。脱法ハーブ（危険ドラッグ）や脱法ハウスが、その典型である。法の網の目をくぐる方法をブラック企業に指南するブラック士業は、その代表である。目一杯にマンションを建設し、住環境を破壊する開発業者も同じである。彼らは法の精神や法の目的を理解していない。企業不祥事の多くは、形骸化したマニュアルがあっても、クレドの精神のないところで起きている。

本書では様々な企業のクレドの内容が紹介されている。紹介されたクレドは近江商人の「三方良し」（売り手良し、買い手良し、世間良し）など顧客や社会のメリットを謳っているものが多い。これはクレドが社員や顧客にどうなって欲しいかを考えて作るものであるためである。ブラック企業とは異なる発想である。

本書は、クレドは作成よりも運用が大事とも主張する。これも表面的な綺麗事で終わりがちなCSRとは異なる。

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