書評『弾左衛門とその時代』

林田力

塩見鮮一郎『弾左衛門とその時代』(2008年)は江戸時代最後の穢多頭(えたがしら)である十三代目弾左衛門(弾直樹)を取り上げた書籍である。弾左衛門は江戸時代の被差別民であった穢多・非人身分の頭領で、弾左衛門の名前を代々襲名した。幕末の動乱期に幕府と交渉し、身分引き上げを獲得するという画期的な働きをした。

本書が指摘するように「幕府崩壊まえに、得た穢多頭のほうからの強い働きかけで「身分平人」を手にしたことの意味は大きい」(92頁)。幕藩体制は崩壊過程にあった。だからこそ幕府崩壊が薩摩や長州という支配階級の入れ替わりで終わってしまったことが残念に感じる。

本書は冒頭で近代のマルクス主義者の部落差別解消のアプローチを批判する。「差別者はすぐそばの農民なのに、マルクス主義者は権力者を差別維持者にすりかえて部落民を戦列に引き込んだ」(19頁)。この問題提起は現代にも通用する。現代にはワーキングプアと生活保護者、若年層とシニア世代、民間労働者と公務員、ハウジングプアと公営住宅住民など様々な格差が存在する。

前者が後者の既得権を批判することは自然な感情である。これに対してマルクス主義的な左派左翼は「庶民同士で批判するな。敵は権力者だ」という類のことを主張しがちである。しかし、それでは目の前に厳然と存在する格差は何も解決しない。後者の側から前者の権利拡張への協力があれば別であるが、それなしで団結を求めることは欺瞞である。

本書はマルクス主義者に対して「もっとも先鋭で危険な闘争をあたえて、もういちど部落民を利用した」とまで言っている(19頁)。このような狡い利用は、目の前の貧困に苦しむ若者に平和憲法擁護を叫ばせるなど現代の左翼教条主義からも感じられる。

本書は被差別民の仕事が汚れをとりのぞいて清めるものであったと指摘する。ところが、社会は汚れを取り除く人も汚いもののように扱い、差別が生まれた。これは現代の福島原発事故の除染作業者にも重なる。脱原発派の一部の放射脳カルト的な思想が差別であると批判される所以である(林田力『放射脳カルトと貧困ビジネス』Amazon Kindle)。

江戸時代の被差別民は明治政府の身分解放令(明治4年8月28日太政官布告)によって形式的には「解放」されたが、それが差別の解消にならなかったことは言うまでもない。逆に職業的な特権を失った多くの被差別民は時代の波に翻弄される。

江戸時代の身分は職業に基づくものであった。身分差別は職業の差別であるが、裏返せば職業の独占を保障していた。本書は解放令の原動力が平等主義ではなく、土地の商品化という資本主義的要請にあったと見ている(124頁)。解放令が被差別民の救済にならなかったことを踏まえると本書の見方に納得する。

林田力

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