『白の予言者 (2) 』ドラッグの害悪

林田力

ロビン・ホブ著、鍛治靖子訳『白の予言者 (2) (道化の使命) 』(創元推理文庫、2015年)は古代ヨーロッパ風の異世界ファンタジー小説である。続き物の第2巻であり、まだ謎は明らかにならない。神呪字諸島の氏族も六公国人も様々な思惑や対立を抱えており、直線的に敵を倒すという冒険物語とは趣が異なる。

ドラゴンは何物か、ドラゴンの首をとることが正しいかは分からないままである。それとは別に印象的な章が二つある。まずは第16章「妖精樹」である。ここでは吸引するとハイになる薬物が登場する。現代の麻薬や覚醒剤、危険ドラッグに相当する。物語世界でも現代の違法薬物と似たような形で使われているが、服用してしまった登場人物のムカつき、自己嫌悪、醜態が凄まじい。危険ドラッグの害悪を説く啓発文よりもダメ、ゼッタイの説得力がある。

次に第15章「シヴィル」である。ここでは登場人物が人間関係を破壊された恨みを道化・ゴールデン卿にぶつける。どうやら事実は、糾弾されるように道化が悪いというものではなく、別に悪い人間がいるようである。しかし、道化の言い方には問題がある。人間関係を破壊された被害者に向かって他人事のように人間関係を修復すれば済む話と言う。被害者が怒りを強めることは当然である。

被害者から見れば、真の悪人がいようとも、道化がいなければ人間関係の破壊がなかったことも事実である。その道化が、被害者が人間関係を修復すれば済む、被害者の行動次第と発言することは、他者の痛みに鈍感過ぎる。私は道化に憎しみを覚えた。

ドラゴンの首を取ることが正しいかは道化とシェイドの意見対立でもある。主人公フィッツにとっては、どちらの人物を選ぶかという難しい選択でもある。シェイドは老練な策士であり、道化の方が真実なのではないかと漠然と思っていた。しかし、シヴィルの章を読むと道化が素晴らしいと思えなくなった。「白の予言者」という設定からは道化が正しいと予想するが、道化の誤りを期待したくなる。

『白の予言者 (1) 』

林田力

ロビン・ホブ著、鍛治靖子訳『白の予言者 (1) (道化の使命) 』(創元推理文庫、2015年)は古代ヨーロッパ風の異世界ファンタジー小説である。六王国の王子デューティフルは外島人(神呪字諸島人)の族姫との婚姻の条件として提示された、氷漬けになっている黒いドラゴン「アイスファイア」の首を切り取りに行こうとする物語である。

本書には「道化の使命」という副題が付いている。一般に道化とは滑稽な言動をすることで周囲の人々を笑わせる存在である。しかし、物語において道化は愚かな振りをしつつ、常識人では考え付かないような、または言えないような真実を突く賢い存在であることも多い。たとえばシェイクスピア作品の道化である。

本書の道化のゴールデン卿も、賢い道化であることを感じさせる。ゴールデン卿はドラゴンの首を切り取ることに反対である。ドラゴンを絶滅させかねないためである。ドラゴンは人間にとって好ましい獣ではなく、人間や人間の家畜を襲う悪い存在である。それでも道化は人間の論理を相対化する鏡としてドラゴンの存続を求めている。道化の説く人間の傲慢さ・身勝手さは、現代日本で自社の土地に何を建てても勝手と主張して住環境を破壊するデベロッパーに重なる。

道化の作品と見た場合に惜しむべきはゴールデン卿が最初から阿呆に見えないことである。阿呆なことばかりしている人が真相を突くから道化の賢さが浮かび上がる。これに対してゴールデン卿には散財という描写があるものの、それは自分の死を予測しているためであり、常識人の動機と変わらない。ドラゴンに対する意見も道化の知恵というよりも、真っ当な意見になっている。

ゴールデン卿は道化らしくないが、本書は別のキャラクターが阿呆の役回りで主人公を振り回す。彼も特別な能力を有しており、決して単なる阿呆ではないことは予想できる。それでも本書においてはゴールデン卿以上に阿呆の役回りをこなしている。彼の存在によって船旅の大変さも理解できる。冒険物語としては地味であるが、実は冒険では華々しい戦い以上に、このような点が大変である。

本書では六公国と外島という二つの異なる文化が描かれる。六公国人から見ると外島人の風習は真逆である。たとえば六公国では複数階の屋敷では身分の高い者は階段を上がらずに済むように一階に住み、召し使いに上階を与える。これに対して六公国よりも原始的な社会に描かれる外島では最高位の人間が最上階を占める。

興味深いことに外島の考え方は現代日本の高層マンションと同じである。高層マンションは一般に上階の方が高価格である。マンション住民は居住回数で格付けされるとも言われている。しかし、移動が少ない低層階の方が上位という六公国の方が合理的である。高層マンションもエレベータ乗り降りの時間ロスは大きい。六公国人は外島人の風習を奇妙に感じるが、読者も自分の社会の非合理な風習を見つめ直すきっかけにもなる。

林田力

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