『本能寺の変431年目の真実』

林田力

明智憲三郎『本能寺の変431年目の真実』は本能寺の変の新説を唱えた書籍である。著者は明智光秀の子孫を称し、情報システム分野のエンジニア出身である。情報を扱う経験を活かした歴史論である。

本能寺の変は、織田信長のパワハラに対する怨恨を動機とすると説明されることが多い。これは主君への謀反は余程のことであるという江戸時代の封建的価値観にマッチしていたために普及した。現代でも社会問題になっているブラック企業と重ね合わせて共感を読んでいる。NHK大河ドラマもパワハラ怨恨説で描かれることが多い(林田力『「江 姫たちの戦国」レビュー』「『江〜姫たちの戦国〜』第5回、本能寺の変はパワハラの悲劇 」)。

パワハラ怨恨説は物語としては面白いが、これに本書は異を唱える。光秀の目的を土岐氏の美濃など一族故地での再興であったとする。ところが、信長は重臣を遠国に転封する姿勢を示した。一族故地での再興は絶望的になった。これを謀反の動機とする。

著者の主張は興味深い。土岐一族の再興を目的とする点は愛宕百韻での光秀の発句「時は今 雨が下しる 五月哉」からも納得できる。信長に重臣を遠国に転封する姿勢があったことも納得できる。『明智軍記』では中国出兵を命じられた際に、信長から出雲国・石見国を切り取り次第とされたが、近江坂本などの既存の領土は召し上げを命じられたとする。さらに惟任日向守や羽柴筑前守の官位は、やがて九州を征服する際の布石とも考えられる。

一族故地での土岐氏再興を目的とした説は、光秀と信長の思想のギャップに説得力を与える。歴史小説などでは光秀と信長の理想の違いを謀反の原因とする説もある。光秀は朝廷や室町幕府、寺社など旧来の権威を大切にしたが、それを信長が破壊しようとしたと描かれる。しかし、光秀は信長の政策の忠実な実行者であった。故に信長から評価され、出世した。光秀を朝廷や室町幕府、寺社の利益代表と見ることは苦しい。

これに対して、室町幕府の守護大名・土岐氏の利益代表ならば自然である。室町幕府は守護大名の連立政権の色彩が強く、守護大名は室町将軍に臣下ながら自立的傾向が強かった。将軍と対立した守護大名は数多い。守護大名は領国支配を強化する中で朝廷や寺社の荘園とも対立した。信長が朝廷や室町幕府、寺社の権威を否定しても、光秀の危機ではない。

しかし、信長が重臣の領地を勝手に召し上げ、遠国に転封することは、光秀の危機である。一生懸命の語源は一つの土地を守る「一所懸命」であり、中世的な武士は土地に密着した存在であった。一族故地での土岐氏再興にこだわることは、当時の武士にとって自然である。近世の大名鉢植え政策以前の本来の武士の姿がある。

本書の一族故地での再興という動機は、本能寺の変後の光秀が生彩を欠いたことの説明にもある。光秀にとって重要なことは、一族故地での再興という地域課題であって、天下ではなかった。これが能力的には決して劣っていなかったものの、天下人となる秀吉との勝敗の差になったのだろう。

さらに信長の家臣達が光秀に味方しなかったことも、土岐一族のための謀反ならば納得できる。本能寺の変は守護大名による室町将軍への謀反と性質が類似するものかもしれない。本能寺の変後は、光秀に味方すると思われた細川氏も味方しなかった。一族故地にこだわる光秀と、江戸時代には九州の大名になる細川氏の価値観の相違がある。

本書は光秀の子孫が光秀の名誉回復を願って執筆されたという面がある。しかし、本書は光秀を一方的に持ち上げるだけではない。後の歴史を知る立場からすれば、守護大名的価値観の光秀は旧時代の人物となる。中世から近世に移る時代の中世的な抵抗である。中世から近世を歴史の発展と捉えるならば、これを光秀の限界と評価することも可能である。このように本書は、真実を曲げて自己の利益を一方的に主張するだけのブラック士業とは異なり、公正(フェア)な姿勢を有している。


林田力

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