大手不動産会社・東急不動産(金指潔社長)の社員(従業員)がコンサルティングのクライアントに嫌がらせ電話を繰り返したとして2010年8月18日に逮捕された。逮捕された人物は東急不動産ソリューション営業本部係長・高田知弘容疑者である。堺区検は9月3日、大阪府迷惑防止条例違反で略式起訴し、堺簡裁は同じ日に罰金20万円の略式命令を出した。 被害者は大阪府堺市のホテル運営会社の女性社長である。運営会社は2009年10月、東急不動産とコンサルタント契約を締結したが、契約内容や支払いに関してトラブルになっていた。高田容疑者は東急不動産側の担当者で、2009年12月から2010年6月にかけ、取引相手であったホテル運営会社社長の携帯電話に番号非通知設定で、嫌がらせ電話を繰り返したという。 嫌がらせ電話の内容や回数はソースによって区々である。ほとんどが無言電話であったが、「壊れろ、壊れろ」という呻き声で女性を畏怖させたこともあったとされる。また、回数は最低でも数十回であるが、約200回との情報もある。 高田容疑者は「社長とトラブルになり、恨みを晴らしてやろうと思った」と述べている。東急不動産は9月3日付ニュースリリース「弊社社員の逮捕について」で、「お相手の方、及び弊社のお客様、お取引先などの皆様には多大なご迷惑とご心配をお掛けし、深くお詫び申し上げます」と述べた。東急不動産はビジネスで犯罪者を出したことになる。 高田容疑者の所属する東急不動産ソリューション営業本部では企業所有の不動産(CRE; Corporate Real Estate)を最適化するコンサルティングサービス(CRE戦略推進アドバイザリーサービス)・クレディールを展開している。 高田容疑者は週刊ダイヤモンド2009年7月25日号掲載のパブ記事「緻密な分析と堅実なソリューションでCRE戦略の意思決定をサポート」に顔写真入りで登場し、クレディールについて以下のように説明していた。 「営業や物流、生産などの拠点の現状を見直し、物件ごとに事業貢献度を測定します。たとえば社員寮であれば、物件時価とともに入居率、運営コストなどを把握。市場の現況を勘案しながら、より収益に貢献する活用策として運営の外部委託、他事業への転用、売却などのプランを提示します」 パブ記事掲載時、高田容疑者の所属はソリューション営業本部ソリューション営業部であった。その後、2010年4月1日付の機構改革によってソリューション営業部は営業推進部と統合・分割され、営業第一部と営業第二部が新設された。 東急不動産では自社サイトとは別にソリューション営業本部営業第一部名義でクレディールの公式サイト「CRE戦略力クレディール」を開設している。そのサイトのインフォメーション欄には少なくとも8月29日時点では2009日7月21日付で「「週刊ダイヤモンド(7月25日号)」に当社記事掲載」と表示され、リンクをクリックするとパブ記事のPDFファイルを閲覧できた。しかし、高田容疑者逮捕報道後の9月4日には記載が削除されている。 パブ記事では「同社(東急不動産)はあくまでも客観的・中立の姿勢を貫きつつ、本業の収益拡大に主眼を置いた戦略を提案する」と述べ、高田容疑者の以下の言葉を引用する。 「クライアントベストの追求が私たちのミッションです」 これはコンサルタントに望まれる姿であるが、トラブルになったホテル運営会社とのコンサルティングでは、クライアントのベスト追求の正反対であった。高田容疑者はクライアントを恨み、嫌がらせ電話を繰り返した。パブ記事の謳い文句と実態には信じ難いほどの落差がある。 高田容疑者の携わっていたコンサルティングサービスのアルファベット表記はCREdibleである。それでも読みはクレディブルではなく、何故かクレディールである。「You've Got Mail」を「ユー・ガット・メール」と表記するなど、この種の間違った英語表記は日本では少なくない。これは情報の受け手を侮った結果であると批判されている(小田嶋隆「「父親」を求める中二のオレらと、「ガールズ」の行く末」日経ビジネスオンライン2010年9月3日)。 クレディールのアルファベット表記では最初のCREは大文字である。これは企業所有不動産(Corporate Real Estate)の頭文字である。国土交通省が「合理的なCRE戦略の推進に関する研究会」を設置するなど、CREはビジネス用語として定着している。故にクレディールはCREとディールに分解できる。 ディールという言葉はdeal(取引、売買)を想起する。ここからは企業価値を向上させるためにCREを活用するコンサルティングではなく、クライアント企業の所有する不動産を切り売りし、手数料でコンサルティング企業が儲ける構図が連想される。これが運営会社のコンサルティングでトラブルとなった背景かもしれない。 さらにCREdibleには皮肉な結論を導き出せる。これと同じスペルの英単語credibleには二つの意味がある。第一に「信頼できる」であり、第二に「脅しが凄みのある」である。一般的には第一の意味で使われることが多い。第二の意味ではcredible threat(効果的な脅迫)という形で使われる。コンサルティングサービスとしては第一の意味でなければ困るが、嫌がらせ電話でクライアントを畏怖させることで第二の意味になってしまった。 クライアントに恨みを抱いたコンサルタントの心理を善意に分析すれば以下のようになる。コンサルティングは顧客の問題を解決するために有用な助言を行うことである。しかし、コンサルタントの中にはコンサルティングを自らの理想を実現する実験場と勘違いする人もいる。 クライアントの希望とコンサルタントの理想が合致すれば問題になることは少ない。しかし、コンサルタントの理想が顧客に受け入れられなければ、その種のコンサルタントはクライアントと衝突してしまう(林田力「オーマイニュース炎上史(2)オピニオン会員廃止」PJニュース2010年8月13日)。 但し、クライアントとの衝突が必然的に嫌がらせ電話に発展するものではない。そこには地上げ屋や近隣対策屋、ブローカーなども跋扈する不動産業界の陰湿さが感じられる。これは私にも思い当たる点がある。 私は東急不動産(販売代理:東急リバブル)から不利益事実を隠して新築マンションをだまし売りされ、裁判で売買代金を取り戻した。そして裁判を記録したノンフィクション『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』を出版した。 ところが、どこから電話番号を仕入れたのか、私宛に嫌がらせまがいの不動産購入の勧誘電話が繰り返しかけられるようになった。マンションだまし売り被害者への不動産勧誘は被害者感情を逆撫でするものである。 その後、『東急不動産だまし売り裁判』が月刊誌サイゾーの「日本の裏側がわかる危ない本100冊」に取り上げられた。著者として取材を受けた私は出版のデメリットについて「嫌がらせまがいの不動産業者からの勧誘電話が増えた」とコメントした(「警察、学会、農業……の危険な裏 告発本が明らかにした「日本の闇」」サイゾー2010年1月号79頁)。 不思議なことに雑誌発売後は勧誘電話がなくなった。この経緯から勧誘電話に不気味な意図を感じている。その意味では本件のように事件が明るみに出ることは、不動産業界の健全化に資することになる。 住まい記事● 東急不動産の十条駅西口再開発は街壊し● ブランズタワー大坂備後町に低評価 ● 東急電鉄が大井町線高架下住民に立ち退きを迫る ● 太平洋クラブと東急不動産だまし売り裁判 ● 二子玉川ライズ優先で世田谷区の家計簿に歪み ● 「もめタネ研」で東急不動産だまし売り裁判から住宅政策を検討 ● 東急不動産の株主優待に怒り ● 最寄り駅から4割も遠くなったブランズシティ守谷 東急の新築マンションでも広告表記訂正 ● 東急不動産の遅過ぎたお詫び 「和解成立」後も続いたトラブルの顛末 ● マンション欠陥施工に対する東急不動産の呆れた説明 責任のなすり合いを続ける関係者たち ● 東急不動産、「和解成立」後も新たなトラブル 手続きめぐり、和解金支払いが停滞 ● 東急リバブルのアルス東陽町虚偽広告 |
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林田力:ブランズ文京小石川Park Frontで近隣住民が工事被害東急不動産の新築分譲マンション・ブランズ文京小石川Park Front(パークフロント)の建設工事(ブランズ小石川一丁目プロジェクト新築工事)で、近隣住民が工事被害を受けている。近隣住民は東急不動産とピーエス三菱が工事を進めることばかりを主張し、住民の意見に耳を貸さないと憤る。ブランズ文京小石川Park Frontは東京都文京区小石川1丁目で建設中の地上9階建てマンションである。施工はピーエス三菱東京支店である。建設地周辺には黄色に黒字で「断固建設反対」と書かれた旗が見られる。 しかし、住民は最初から建設に反対していたわけではない。住民は2009年に「ここの地盤は、地名(小石川)の由来通り、とても軟弱で水がたくさんでる場所です。建設工事には十分注意して、行ってください。」と東急不動産に伝えた上で建設に合意したという。 ところが、2010年2月に開始した工事は酷いものであった。絶えず振動(震度1〜3程度)、騒音、粉塵に悩まされた。重機が動く度に家が揺れる状態であった。その上、家屋を破壊され、区道には亀裂が入り、公園にも被害が及ぶ事態になった。 ある住民は体調を崩して病院通いを余儀なくされたほどであった。食事が普段の半分ほどの量で食べられなくなり、苦痛と気持ち悪さを覚える。冷や汗が止まらなくなり、手の震えが続くこともあった。 遅くとも3月中旬に住民が建設現場北側の区道に亀裂が入っていることを確認した。事業者側は亀裂の補修を繰り返しているが、補修の上から亀裂が広がってしまう状態である。また、同時期に現場西側の塀が傾いていることを確認した。 4月にはマンションの捨てコンクリート(捨てコン)の打設や根切り工事が完了したが、今度は現場東側の塀が傾いていることを確認した。加えて家屋の土間等に多数の亀裂、土が流れた形跡を発見した。また、現場北側の区道の先の家屋にも亀裂が入るなどの被害を受けた。 周辺の家屋は小規模の地震でも大きな揺れを感じるようになった。ある住民は9月27日2時55分の千葉県北西部を震源とする地震で飛び起きた。東京は震度1または震度2であったが、住民は震度3に感じた。「家の下が緩んでいるせいか」と不安になったという。 住民は4月4日にピーエス三菱の現場作業所に電話したが、日曜日であったためか応答がなかった。翌5日に改めて連絡したが、原因の究明もせずに漫然と工事を続けるだけであった。そこで4月8日に東急不動産及びピーエス三菱の代表取締役宛てに工事の即時中止を申し入れた。 4月10日に中間家屋調査が行われ、ブロック塀の角の部分が離れてしまったことなどを確認した。事業者側は原因として以下の2点を説明したという。 第一に山留め杭の計画変位幅以上の変位である。地盤調査から、現地には地上面から3m程度の腐植土層が存在することが判明している。腐植土層は枯れ草や水性植物などの有機物が分解して土壌と混じり合ってできたもので、比較的軟弱な地層である。ピーエス三菱は腐植土層を前提として施工計画を立てたと主張する。しかし、当該施工部分の地層の強度が調査結果から予測される強度以下であったため、施工計画時の予測変位幅を上回る変位が発生したとする。 第二に降雨による裏込め土の圧密化である。ブランズ文京小石川の工事では山留めの工法として親杭横矢板工法を採用する。この工法は掘削前にH鋼を地中に打設し、掘削進行にともない、隣り合ったH鋼の間に板を挿入するものである。板の裏側の地盤を切削した上で、板を挿入し、切削した地盤面との隙間に土壌を充填する。この土壌が裏込め土である。ところが、降雨によって裏込め土の圧密化が発生し、それに伴って周辺土壌の移動や地盤面の耐力低下が発生したとする。 住民は軟弱地盤で、水脈が走っているほど地下水が豊富な建設地で親杭横矢板工法を採用したことを問題視する。このような土地では鋼矢板工法(シートパイル工法)が通常であると主張する。 その後、現場西側の木製の塀の傾きについても、住民からの連絡により、4月16日に家屋調査が行われた。一方、東側のブロック塀の亀裂も拡大・増加を続け、4月29日には再度の中間家屋調査が実施された。 住民は原因究明や対処方法、被害箇所の回復について東急不動産・ピーエス三菱と話し合いを行ったが、納得のいく説明や回答は得られなかった。しかも、事業者側は住民の同意なしで工事を再開してしまった。 住民はマンション建設による地下水への悪影響も懸念する。地盤沈下などの原因になるためである。少なくとも5月14日と6月23日には住民によって工事現場に水が溜まっている状態であることが確認された。 8月16日には3回目の中間家屋調査が実施された。クラックの発生や複数個所での亀裂の拡大などを確認した。8月24日頃には建設現場から水抜きが行われた。その際に近隣住民は複数個所で捨てコンが割れていることを確認した。また、地下水の湧出も止まっていなかった。 実際、9月2日の建設現場では8月24日よりも水が溜まっていた。住民は捨てコンのひび割れも随所で確認している。この日も水抜きが行われたが、翌3日には水位が上がっていた。2010年夏は記録的な猛暑であった。それでも建設現場に染み出た地下水が乾燥することはなかった。住民は地下水が地表に近いところから、染み出ていることを観察している。 事業者側は遅くとも9月6日に止水工事の終了を住民に伝えた。住民は工事現場に泥が溜まっていることを確認した。翌7日には再び建設現場に地下水が溜まっていることが確認された。住民は「僅か一晩で大量の地下水が染み出る土地であることを考慮していない」と語る。 ピーエス三菱は9月4日に住民のポストに翌週の工事予定表を投函した。そこには捨てコンの解体に始まり、汚泥搬出、新たな捨てコンの打設、タワークレーンの設置などが予定されており、本格的な工事再開の通告であった。住民側は工事再開には同意していない。事業者からは住民への補償や具体的な説明は一切なかったという。1週間分の工事予定表が、ピーエス三菱から週末に投函されるだけである。住民側から聞きに行かなければピーエス三菱・東急不動産は何も説明しない会社であると憤る。 体調を崩していた住民は震えがくるほどの怒り、虚脱感が続き、体調が一層悪化した。それまで病院で処方してもらっていた薬も効かなくなったという。診断の結果、少し強めの薬に変更し、軽い安定剤も服用することになった。自律神経の不調が出ているとのことである。 住民は6日に文京区役所の建設課の担当者と東京都の都市整備局市街地建築部建設業課 建設業指導係に工事の即時中止を要望した。以下のように主張した。 「現在も工事被害が続いているが、東急不動産らは原状回復も対策もしていない。工事を続けさせることはおかしい。」 しかし、区は「家が壊れる、または生死に関わるほどでなければ、強制的な工事停止命令どころか勧告すら出せない」と言い、都は「国土交通大臣の許認可だから……」と及び腰であった。住民は「都民・区民の生活を守ることが都や区の仕事ではないのか」と憤る。 住民は並行して東急不動産とピーエス三菱の本社に「住民は工事再開に同意していないのに、工事を続けるとはどういうお考えか」と電話と問い質したが、うやむやの対応に終始した。「今後も、きちんと対応させていただく所存です」という小馬鹿にした返答が住民の怒りを増大させた。何しろ現時点でまともな対応がなされていない以上、全く意味がない返答である。 特に住民はピーエス三菱の対応に怒る。4月の話し合いでは東京支店管理部の従業員が出てきたが、色々と物議を醸していた。この人間に話をしても通じないとわかっていたため、本社に電話したが、「担当者と変わります」と言われて待つこと数分、話し合いの席に来た人間に電話を回された。やはり話にならないため、再度、ピーエス三菱本社の管理本部に直接電話したが、支店管理部に回された。 しかも担当者は「今日の工事で、捨てコンの解体による騒音の苦情でしょうか」と言い放った。住民は本気で「この会社はどうなっているのか」と呆れたという。「住民を馬鹿と思っていなければありえない対応」とも憤る。そして東急不動産とピーエス三菱の両社に共通する点は、「折り返しお電話します」と言いながら、全く連絡してこないことである。 この東急不動産とピーエス三菱の対応の悪さについては記者にも経験がある。記者は東急不動産(販売代理:東急リバブル)から不利益事実を隠して新築マンションをだまし売りされたが、そのマンションの施工会社がピーエス三菱であった(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年)。このマンションには不利益事実不告知(隣地建て替え)以外にも欠陥施工など様々な問題があった。その一つがアスベスト(石綿)の使用である。 記者は東急リバブル、東急不動産、ピーエス三菱にアスベストの使用有無を問い合わせたが、相互に「当社からは回答しない。他で聞け」の一点張りであった。最終的には専有部分のルーフバルコニーの押出成型セメント板、バルコニー隔壁のフレキシブルボード、キッチン上台のセメントボード、ユニットバスのセメントボード・接着剤でアスベストが使用されていることが判明したが、会社間のたらい回しの連係プレーによって事実の判明が大幅に遅れた上に無駄なエネルギーを費やすことになった。 話をブランズ文京小石川に戻す。事業者は9月7日の夕方に亀裂が拡大していた現場北側の区道の補修を改めて実施した。しかし、住民にはアスファルトをバラバラと流していただけに見えたという。靴の裏にアスファルトがこびりつき、住民には不評であった。さらに9日以降にモルタルで埋めて補修したものの、遅くとも29日には亀裂・陥没した。住民は20日も経たないで亀裂どころか陥没までする状態を不安視する。 |