林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』

東急リバブルのアルス東陽町虚偽広告 林田力

多くの消費者にとって不動産は一生に一度あるかないかの買い物である。しかし、その買い物の重要な判断材料となるマンション仲介広告は、いい加減な内容であることも多い。以下では同じマンションで繰り返し虚偽内容の広告が確認された信じ難い事例を紹介する(林田力『東急コミュニティー解約記』)。

問題の広告は東急不動産が分譲し、東京都江東区東陽にあるマンション・アルス東陽町の一室の売却を仲介するものである。最初の虚偽広告は大手不動産販売業者の東急リバブル錦糸町営業所が2005年に作成・配布した。広告の虚偽内容は以下の通りである。

第一に1LDK+DENの間取りを広告では2LDKと表示し、広く見せようとした。

第二に用途地域は第一種住宅地域と商業地域からなるにも関わらず、広告では第一種住宅地域とのみ表示した。

第三に駐車場料金は月額30000〜32000円であるにもかかわらず、広告では月額僅か600円とする。これは単なる誤記とは考えられない。600円とは桁が異なる上、0を1,2個落としてしまった訳でもない。しかも600円では駐車場料金の世間相場からも離れている。現在は駐車場に空きがないとはいえ、格安で駐車場を借りられる、お買い得物件との誤解を消費者に与えかねない広告である。

また、東急リバブルのウェブサイト上のアルス広告ページでは間取りがコロコロと変わっていた。

7月31日時点では間取り図に洋室8.0畳、洋室4.5畳、LD 11.4畳と実物とは異なる虚偽の表示をしていた。

8月12日時点では洋室8畳、DEN 4畳、居間・食堂11.2畳で畳数は正しい記載に改められた。しかし、間取りは相変わらず2LDKと虚偽表示を続けていた。

8月19日時点では洋室8畳、納戸4畳、LDK 15畳とLDKが実物よりも大幅に広く見せている。但し、間取りは1SLDKに修正された。

不動産広告では、実際のものよりも優良又は有利であると誤認されるおそれのある表示をすることは不当表示として禁止されている。現在または将来の環境等について、実際のものより著しく優良、有利であると一般消費者に誤認させるような表示は不当表示になる。

東急リバブルの虚偽広告に対しては、景品表示法の観点から公正取引委員会も動いた。東急リバブルが加盟する社団法人首都圏不動産公正取引協議会において改善措置を講じさせた(独占禁止法45条3項の規定に基づく公正取引委員会通知書、公取通第497号)。

この虚偽広告には単なるミスで済ませられない事情がある。東急リバブルは上記マンションの新築分譲時の販売代理を務めていた。従って通常の仲介業者以上に物件を熟知している。新築分譲時の販売資料には間取りも用途地域も駐車場料金も正しく記載されていた。それにもかかわらず売却仲介時には虚偽の広告を作成・配布したところに東急リバブルの悪質さが際立っている。

広告が近隣住戸に配布された当時、林田力はアルスの別の住戸(301号室)の購入者として売買代金返還を求めて東急不動産と裁判中であった。東急不動産が裁判で提出した図面(乙第1号証)には虚偽があり、原告(林田力)は反論のためにアルスの間取りを調べていた。そのために東急リバブル錦糸町営業所の仲介広告の虚偽も発見できた。

裁判では東急リバブルが不利益事実(隣地がアルス竣工後すぐに建て替えられること及び作業所で騒音が発生すること)を隠してマンションをだまし売りしたことが争点であった。私は東急リバブル錦糸町営業所の虚偽広告(チラシ、ファックス広告、ウェブページ)も証拠(甲第18号証)として提出した。それによって東急リバブルが消費者に正確な情報を伝えようとしない不動産業者であることを立証した。

この証拠に対して、裁判官は第三回弁論準備手続(2005年9月6日)で東急不動産側に反論するように示唆したが、東急不動産側から反論されることはなかった(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社、2009年、44頁)。

東急リバブル東陽町営業所の虚偽広告

東急リバブルによるアルス仲介虚偽広告は錦糸町営業所だけで終わらなかった。東急不動産だまし売り裁判では原告の請求通り、東急不動産から原告に売買代金が返還された。アルス東陽町301号室の所有権は東急不動産に戻され、アルス東陽町301号室は東急リバブル東陽町営業所の専属専任媒介で売りに出された。ところが、その仲介広告にも虚偽があった。

虚偽広告は東急リバブルのウェブページ上で遅くとも2007年12月28日には公開された。ウェブページに加え、不動産流通促進協議会(オープンマーケット)統一様式による広告資料にも虚偽が表示された。これは不動産会社への資料請求でもらえる資料であり、ウェブ広告よりも詳細な情報が記載されている。

東急リバブルの広告表示の誤りは大きく5点ある。

第一に駐車場料金である。実際は月額で機械式駐車場の上段32000円、下段30000円である。しかし、広告では600円、20000円、30000円と不正確な表示を繰り返した。実際よりも安く見せているため、消費者の期待を裏切ることになる。これは錦糸町営業所の虚偽広告と同内容である。東急リバブルは同じ虚偽を繰り返していることになる。

東急リバブル錦糸町営業所と東陽町営業所では営業所が異なる。それにもかかわらず、同じ虚偽内容で広告することが信じ難い。前回の虚偽広告についての反省が営業所間で共有されていないことがうかがえる。そもそも反省していない可能性もある。

逆に事業所が異なるのに同じ虚偽記載となる点は会社ぐるみで虚偽広告のテクニックが共有されていることをうかがわせる。この種の問題が起きると担当者の問題としてトカゲの尻尾切りとなりがちだが、東急リバブルの虚偽広告については一担当者の問題と矮小化できないことが明らかである。

第二に洋室(6畳)の窓の間取り図表示である。東急リバブルのウェブページでは2008年1月4日に新たに外観写真、間取り図、地図、キッチン・リビングの室内写真を追加した。この間取り図の窓に虚偽がある。洋室(6畳)には窓が3箇所ある。そのうちの1箇所が外開き窓で、2箇所が羽目殺し窓(FIX)である。ところが、広告では2点の虚偽がある。

(1)実際は窓が3つあるが、広告では当初、2つしか表示しなかった。間取り図では6畳の洋室の西側の壁に窓が2つ設置されている。片開きの外開き窓が一つと羽目殺しの窓が一つである。しかし、実際は羽目殺し窓の北側にもう一つ、羽目殺し窓が設置されている。

(2)外開き窓を羽目殺しの窓として表示した。間取り図を修正して窓の数を3つにした後で、何故か外開き窓が羽目殺し窓にデグレードした。

また、修正前の間取り図では壁に対する窓の大きさも実物と比べて小さくなっていた。窓の数の虚偽と合わせると、窓を小さく表示して目立たなくしているように感じられる。

正確な窓の数や形状、大きさは新築分譲時の図面集にも記載されている。東急リバブルは新築分譲時の販売代理であり、知らない筈のない事実である。

一般論としては採光や眺望を可能にする窓の数が多い方が物件の魅力が増す。また、通風を可能にする外開き窓は羽目殺し窓よりも好ましい。窓も大きい方が評価は高い。それにもかかわらず、東急リバブルが仲介広告で窓を隠した理由として、以下の2点が考えられる。

先ず洋室の窓から数10センチ先に建物ができたため、窓が無意味になった。アルス東陽町竣工時は窓から洲崎川緑道公園が眺望できたが、その後すぐに301号室に面する隣接地に作業所が建設され、窓が建物で塞がれる状態になった。

東急不動産(販売代理:東急リバブル)は、この状態になることを把握していたが、新築分譲時には説明しなかった。反対に「二面採光・通風」をセールスポイントとして販売した。引渡し後に真相を知った私は消費者契約法(不利益事実不告知)に基づき、売買契約を取り消した。今回、アルス東陽町301号室が売りに出されたのも、契約取消しによって、東急不動産に返品されたためである。この経緯があるため、東急リバブルが洋室の窓を強調したくないと考えた可能性がある。

次に洋室の窓の結露の問題がある。アルス東陽町301号室の洋室の窓では冬場に結露が発生した。窓ガラスの表面や窓枠上部に無数の水滴が付着し、ポタポタと下に垂れ落ちてくる。窓のサッシが水溜りになり、あふれて流れ出てくるくらいであった。窓枠の下にタオルをしき、吸収させるほどであった。

この結露に住人は苦しめられた。水滴が見たこともない虫の形に変わり、列をなして背筋を這い下りていく。そのような感覚に襲われたこともあった。東急リバブルには洋室の窓の数を減らした動機には、なるべく窓に目立たないようにすることで結露の問題にも気づきにくくしたかったためと推測できる。

第3に洋室(5畳)の出入り口の間取り図表示である。実物は引き戸であるが、広告では当初、内開きの開き戸にしていた。東急リバブルの広告ウェブページではリビングの写真も掲載されていた。これは洋室(5畳)から撮影されたもので、写真上部に引き戸の鴨居が写されている。ここからも洋室(5畳)の扉が引き戸であることは明らかである。この写真自体は最初の虚偽の間取り図が掲載された1月4日から掲載されており、東急リバブルは自ら掲載した写真と矛盾する間取り図を作成したことになる。

東急リバブルが引き戸を開き戸に虚偽表示する動機としては以下の2点が考えられる。

先ず洋室との適合性、洋室のリビングからの独立性を示すことで、物件を実体以上に良く見せようとした。具体的には以下の通りである。

(1)フローリングの洋室には引き戸よりも開き戸が相応しい。

(2)引き戸よりも開き戸の方が洋室(5畳)の独立性を示しやすい。但し、洋室(5畳)に行くためにはリビングを通る必要があり、見かけ上の独立性に過ぎない。

次に間違った新築分譲時の図面に依拠して間取り図を作成した。新築分譲時に配布された図面の中に実物とは異なり、開き戸になっているものがあった。アルスでは新築分譲時に配布された図面に数パターンあり、現実の間取りと異なったものがある。これは青田売り(建物が完成していない状態で販売すること)で販売されたこと、設計変更が複数回行われたことを反映していると考えられる。

相互に矛盾する複数種類の図面集が存在することは東急不動産だまし売り裁判でも問題になった。原告は少なくとも3種類の図面が存在することを証拠によって立証した。図面集プリント版(甲第15号証)、図面集冊子版(甲第16号証)、東急コミュニティー保有版(甲第17号証)である。このうち、図面集冊子版と東急コミュニティー保有版は実物と相違した内容になっていた。

また、アルス東陽町では設計通りに施工されていない問題も発覚した(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』「耐震強度偽装事件と欠陥施工」)。東急不動産のマンションは分譲時から無責任・いい加減という問題を抱えていた。

第4に管理会社の社名の誤表示である。名前を間違えることは失礼極まりない。社名を間違えるということはビジネスパーソンとして致命的である。名前は人格の現れであり、名前を間違えることは相手の人格を否定するに等しい行為である。間違えた側の意図は問題にならない。そのように受け取られる行為をするということが問題である。

元々、アルス東陽町では他の東急不動産分譲物件と同じく、グループ会社の株式会社東急コミュニティーに管理を委託することを条件に分譲された。しかし、東急コミュニティーに問題があったため、管理組合が管理会社を変更した経緯がある。

東急グループとしては面白くない展開であり、故意に正確な社名を書かないことで意趣返ししたのではないか、と疑いたくなる。これも本当に意趣返しであるかは重要ではない。意趣返しという見方が成り立つ可能性のあるような振る舞いをあえて行うことは軽率の謗りを免れない。

管理会社を東急コミュニティーからリプレースしたという経緯がある以上、東急側としては通常以上に慎重であるべきであった。それにもかかわらず、軽率な行動をするという事実自体が相手に敬意を払っていないという事実を雄弁に物語る。

第5に近隣のスーパーマーケットの店名の誤りである。広告ではセイフー東陽町店と表示する。しかし、セイフーは2006年3月にグルメシティに変更されており、グルメシティ東陽町店が正しい。

広告作成時に調査すれば古い店名で間違えることはない虚偽である。新築分譲時(その頃はセイフーであった)の資料を写したために、古い店名を書いたものと推測される。いかに東急リバブルが現地を調査していないかが分かる虚偽である。現地調査の手間をかけず、新築分譲時の資料を流用する。それによって宅地建物取引業者として果たすべき義務を果たさず、いわば手抜きを行うことで利益を得ようとしたことになる。

店名の虚偽が消費者に及ぼす不利益は相対的に大きくないが、重要な問題がある。駐車場料金や間取りの虚偽については、東急リバブルが販売代理をしていた新築分譲時の資料には正確に記述されていることをもって東急リバブルの悪質性を結論付ける一つの理由とした。

これに対しては新築分譲の販売代理(販売受託)と仲介では部署・職種が異なり、「知っている筈」とは断言できないとの反論も考えられる。しかし東急リバブルは現地調査すれば間違える筈がないにもかかわらず、新築分譲時の資料の誤った情報(洋室の開き戸)や古い情報(スーパーマーケットの店名)を仲介広告に掲載している。

ここから新築分譲時の資料を利用していると判断できる。即ち新築分譲時の情報を把握しながら、都合の悪い事実や誤魔化したい事実は虚偽表示をしていることになり、東急リバブルの悪質性は高いと改めて結論付けられる。

因みに仲介広告でも新築分譲時の図面集でも方位は左を北にして描いている。これは301号室のベランダが西にあるためと推測される。通常は北を上、南を下に書くものである。住宅では日当たりの良い南向きが好まれるため、ベランダが下に来るような方位にしたと考えられる。このような消費者に不親切で姑息なところは新築分譲時も仲介時も一貫している。

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林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』
東急不動産(販売代理・東急リバブル)から不利益事実を隠して問題物件をだまし売りされた著者(=原告)が消費者契約法に基づき売買契約を取り消し、裁判で売買代金を取り戻した闘いの記録(ロゴス社、2009年7月1日発行)。
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