林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』

太平洋クラブと東急不動産だまし売り裁判

大手ゴルフ場運営会社「太平洋クラブ」(東京都港区、桐明幸弘社長)の倒産に対し、太平洋クラブを実質支配していた東急不動産にゴルフ場会員から怒りの声が出ている。自社の金儲けしか考えない東急不動産の体質は東急不動産だまし売り裁判や二子玉川ライズ問題と共通する(林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』ロゴス社)。『ゴルフタイムス』では「卑劣極まる東急不動産は、刑事告発される運命にある」とまで指摘する。

太平洋クラブの民事再生(倒産)は東急不動産だまし売り裁判後に東急不動産の詐欺的体質が顕著に表れた事件である。東急不動産だまし売り裁判で問題になったマンション分譲の分野では子会社の東急リバブルを販売代理とし、消費者対応は東急リバブルに丸投げしている。東急不動産は消費者の前には現れない。

東急不動産はどうしようもない企業であるが、消費者対応の点では東急リバブルが狡猾なために世間的には、ごまかせているという実態がある。太平洋クラブの倒産後の対応では東急リバブルのような存在がないために東急不動産の非常識さが露骨に表れている。

もともと東急不動産のゴルフ場運営は評判が悪い。『東急不動産だまし売り裁判』に対しては筑波東急ゴルフクラブ会員からの書評「東急不動産の実像を知る!」も寄せられている。書評者は『東急不動産だまし売り裁判』を「当事者だけに本当によく書けている」と評価する。東急不動産だまし売り裁判と似たことが筑波東急ゴルフクラブでも行われていると告発する。

会員を集めるだけ集めて、会員特典を次々と引き下げていった。具体的にはツーサムプレーの募集終了直後の廃止、デフレ下の年会費の値上げ、ハーヴェスト宿泊優待券の1泊3800円から約1万円への大幅引き上げなどである。東急側の言い分は「太平洋ゴルフクラブとの提携を行い平日の優待を増やした」であるが、休日しか行けない会社員にはデメリットでしかない。

書評者は妻と一緒にゴルフする約束で会員権を購入したものの、購入直後にツーサムプレーが廃止され、妻のゴルフデビューは露と消えてしまった。妻にはさんざん嫌味を言われ、本当に悲しいと嘆いている。太平洋クラブの問題も「優良ゴルフ場を切り離し、預託金会員に尻ぬぐいをさせる詐欺まがいの手口」である(「東急不動産の汚点『太平洋クラブ』」FACTA 2012年4月号)。

東急不動産の姑息さは会員向け説明会の日程調整にも現れている。会員向け説明会は1月30日月曜日という月末の平日午後13時半に設定された。なるべく会員に来てほしくないという東急不動産の逃げの姿勢が浮かび上がる。それでも説明会は会場の渋谷公会堂1・2階総座席数2084席が満席となり、立ち見が出るほどだった。

説明会開始前には公会堂の前で複数の被害者団体がチラシを配布していた。当然のことながら、東急不動産への反発も強く、怒号も飛び交った。「東急不動産(8815)には厳しい声が飛んだ」(「市場のうわさ」日本証券新聞2012年2月13日)。

東急不動産だまし売り裁判においても東急不動産は居留守やたらい回しで逃げ続けた。「東急不動産の責任感の欠如」との表現もある(「どうなる?太平洋クラブ、そして、三井住友VISAT.Masters」ゴルフタイムスの世界2012年6月14日)。

東急不動産は太平洋クラブの民事再生法適用申請によってゴルフ業界全体に害悪を及ぼしている。健全経営のゴルフ場にも会員からの預託金償還請求が急増している。ゴルフ会員権の売却志向も増幅させ、会員権相場の低迷にも更に拍車をかけた(「ゴルフ会員権業界を取り巻く環境〜太平洋クラブの法的整理の考察〜」AIゴルフ総研レポート、2012年3月)。これも分譲マンション購入検討者に広く衝撃を与えた東急不動産だまし売り裁判と共通する。



太平洋クラブの民事再生に批判

太平洋クラブ倒産事件では現経営陣に甘い民事再生法を利用したことに批判が集まっている。太平洋クラブと子会社(太平洋ゴルフサービス、太平洋アリエス、太平洋ヒルクレスト、太平洋ティ・ケー・エス、太平洋トリアス、太平洋ゴルフスクエア)計7社は2012年1月23日に東京地裁へ民事再生法の適用を申請した。負債総額は総計約1260億円で、その中には保証債務380億円が含まれる。申請代理人は片山英二弁護士(阿部・井窪・片山法律事務所)である。

この民事再生法適用申請について「(太平洋クラブを実質支配する)東急不動産は外資と組み、民再を悪用して借金棒引きを狙っている」と見られている。そのために会員から東急不動産に対して「裏切り者!」「外資以上に悪質!」と怨嗟の声も上がった(山岡俊介「『太平洋クラブ』民再申請 東急不動産に対し、会員から怒りの声」アクセスジャーナル2012年1月27日)。会員向け説明会では会員から「何故、会社更生法ではないのか」との質問も出された(「太平洋グループの債権者説明会が開催された」東京ゴルフリサーチ2012年2月8日)。

西村國彦弁護士は東急不動産への怒りを表面する。「最も責任重大なのは東急不動産です。三井住友ブランドを使って何百億円も会員権を売っておきながら、経営が破綻すると、会員や預託金より株主の自分を守ることを優先する。とんでもない話です。こういう倒産のときに、債権者より株主が優先されるというのは、法的にも道義的にもあり得ません」(「とんでもないことに・・・ 「民事再生申し立て」のその日まで会員を集めていた 名門「太平洋クラブ」会員1万3000人の悲劇」週刊現代201年3月24日号)

民事再生では現経営陣が残るが、会社更正では現経営陣が排除される。また、民事再生手続は会社更生手続と異なり、担保付き債権者は自由に担保処分ができてしまう。



東急不動産の太平洋クラブ経営主体隠し

太平洋クラブ倒産事件では東急不動産の経営主体隠しが批判される。東急不動産は太平洋クラブの親会社太平洋ホールディングスの大株主である。しかし、東急不動産が親会社であることは会員に知られておらず、会員のほとんどは三井住友銀行が親会社であると信頼していた。太平洋クラブは1971年に設立された名門で、「三井住友VISAマスターズ」が開催される「御殿場コース」や札幌、軽井沢など全国に多くのゴルフ場を抱えている。

太平洋クラブの親会社であった三井住友銀行は株式と債券を東急不動産が支配する太平洋ホールディングスに売却した。「東急不動産が設立した太平洋ホールディングス合同会社には、太平洋クラブの株式をたった1円で譲渡したとされている。」(平成24年(再)第7号民事再生手続申立事件「要望書」)。

東急不動産ではなく、太平洋ホールディングスというペーパーカンパニーに譲渡したところに東急不動産だまし売り裁判の東急不動産らしい卑劣さがある。太平洋クラブ関係者は「業績のよくない太平洋クラブを連結決算から外し、密かに実質支配した」と説明する(「東急不動産の汚点『太平洋クラブ』」FACTA 2012年4月号)。太平洋クラブが倒産しても東急不動産が損をしない仕組みとした。

対外的には東急不動産は自社が太平洋クラブを実質支配している事実を隠し、ペーパーカンパニーにすぎない太平洋ホールディングスを前面に押し出した。一般には2007年3月に太平洋クラブが東急不動産と業務提携したという形でしか告知されていなかった。東急不動産への譲渡を倒産後に初めて知らされた会員も多い。

悪評の多い東急不動産が親会社であると知っていたならば会員権を購入しなかった、会員権を売却していた会員も少なくない。『ゴルフタイムス』は「会員騙しのテクニックの初歩」と指摘する。オーナー交代を会員に告知しなかったことは債権者に対する告知義務違反と批判される。

以下は金融ジャーナリストの分析である。「東急不動産は大株主として、実質的に太平洋クラブの経営の主導権を握ったのに、そのことを隠し、対外的には『業務提携した』だけだと発表して会員を騙した。会員はそう見ています。」(伊藤歩「とんでもないことに・・・ 「民事再生申し立て」のその日まで会員を集めていた 名門「太平洋クラブ」会員1万3000人の悲劇」週刊現代201年3月24日号)

「5年も前に、太平洋クラブの株式と貸付債権を東急不動産系など3つのファンドの連合体に売却して完全に撤退していたのに、それが対外的には公表されていなかったことだ。そのことがこの5年間に会員権を取得した会員だけでなく、平和相互銀行傘下時代からの古参会員の怒りをも買った。」(伊藤歩「会員が猛反発!太平洋クラブ再生案否決の舞台裏」東洋経済オンライ2012年10月4日)



東急不動産の太平洋クラブ詐欺

太平洋クラブ倒産事件では東急不動産の詐欺・詐害行為が指摘されている。第一に太平洋クラブの会員募集である。太平洋クラブは民事再生法適用申請の直前にも会員募集を行っていた。東急不動産は会員に損害を与えることが分かっていながら、目先の収益確保に走った。東急不動産だまし売り裁判と同じ詐欺的商法である。

太平洋クラブ被害者の会は太平洋クラブ経営陣が東急不動産株式会社の利権のために会員集めを行い、挙げ句の果てに無責任にも民事再生の申し立てに及んだと批判する(平成24年(再)第7号民事再生手続申立事件「要望書」)。

第二に2月に来る預託金償還期を目前にして民事再生法適用を申請した悪質さである。太平洋クラブの預託金会員は約1万3000名で、預託金総額約685億円である。無預託金会員(預託金のない入会金だけの会員)は約7000名である。預託金償還と倒産の関係は以下のように分析されている。

「2月以降に500億円とも囁かれる預託金償還期限が迫り、資金繰りに窮した経営陣が、裁判所に駆け込んだにすぎない。」(「東急不動産の汚点『太平洋クラブ』」FACTA 2012年4月号)

「東日本震災でゴルフ界に荒波が吹くと、太平洋の償還問題に対処しきれずに、自分自身(引用者注:東急不動産)も危険を感じ、倫理道徳を無視して、逃避劇を演じた。つまり、700億円の預託金の保証ができなくなった太平洋クラブの経営を牛耳るうまみがなくなったからである。」(『ゴルフタイムス』)

「太平洋クラブは、預託金償還問題の対策として、他のゴルフ場が見習うべき点は一つもなく、蓋を開ければ、何もせずに預託金債務を放棄した」(「ゴルフ会員権業界を取り巻く環境〜太平洋クラブの法的整理の考察〜」AIゴルフ総研レポート、2012年3月)

第三に太平洋アリエスへの濫用的な会社分割である。太平洋クラブは東急不動産への支配権移転後の2010年に所有する優良コース(御殿場、御殿場ウエスト、相模、軽井沢、江南)を新設会社太平洋アリエスに移転した。御殿場は太平洋クラブにとって看板コースである。この事実も会員に通知されていなかった。これは詐害行為になると見られている。



太平洋クラブの会員無視のスポンサー契約

太平洋クラブ倒産事件では会員無視のスポンサー契約締結が会員の怒りを燃え上がらせた。太平洋クラブはゴルフ場運営最大手「アコーディア・ゴルフ」(東京都渋谷区)とスポンサー契約を締結していた。

最初からアコーディアをスポンサーに決めていたかのような手際の良さに対し、会員らは会員無視の計画倒産」と、怒りの声を上げている(伊藤博敏「6・28株主総会が最終ラウンド!  週刊誌を巻き込むスキャンダル合戦に大物フィクサーまで登場する日本最大のゴルフ場運営会社「アコーディア・ゴルフ」委任状争奪戦の行方」現代ビジネス2012年6月7日)。

会員向け説明会でもスポンサー契約に対する批判の声が大きかった(山岡俊介「『太平洋クラブ』民再申請 1・30会員向け説明会は「東急不動産」に怒声」アクセスジャーナル2012年2月10日)。

「今回の民事再生は、あらかじめスポンサーを決めて申し立てるプレパッケージ型。申し立て前に会社側が内々に選定を進めるため、プレパッケージ型はそもそもスポンサー選定経緯に不透明な印象を与えやすい。」(伊藤歩「会員が猛反発!太平洋クラブ再生案否決の舞台裏」東洋経済オンライ2012年10月4日)

アコーディアの評判は悪い。太平洋クラブがアコーディアの傘下になることは、年会費の増額、大衆化、コースコンディションの悪化、来場者の質の低下などデメリットがある(「ゴルフ会員権業界を取り巻く環境〜太平洋クラブの法的整理の考察〜」AIゴルフ総研レポート、2012年3月)。

インターネット掲示板では「太平洋クラブを返してくださいよ〜」と題して「額面ちゃらにしたうえにアコーディアにあげちゃうなんて個人に対して二重の苦しみを与えるですか」と批判された。この投稿に対して「本当に東急不動産はヒドイ会社」と同意する意見も投稿された。

PGMの神田有宏社長はアコーディアへの売却の利益を「東急不動産が持っていってしまい、メンバーには還元されてない」と指摘する(「“アコーディア問題”を、最大ライバルのPGM社長に直撃。コンプラ問題は、統合の行方は、太平洋クラブ問題は……キーマンが激白」東洋経済オンライン2012年5月23日)。これは東急不動産だまし売り裁判と共通する搾取の構造である。

「東急不動産は、アコーデイアを大事なお客として密着したのである。当然、無責任を承知で、逃避した東急不動産は、会員2万人から、告発される運命にある。コーポレートガバナンスの問題、倫理違反でもある。上場企業の社会的問題である。」(「太平洋クラブ倒産事件 50 スポンサーと会員」ゴルフタイムスの世界2012年10月10日)



太平洋クラブ再生案否決は東急不動産への怒り

ゴルフ場経営・太平洋クラブでは2012年10月3日に債権者集会を開催し、太平洋クラブ提案の再生計画案を反対6866票対賛成3634票の大差で否決した。太平洋クラブ会員は再生計画案の預託金の返還率が低いと反発されており、当然の結果である。再生計画案否決は実質的な親会社である東急不動産の不誠実さに対する会員の怒りを反映したものである。

太平洋クラブは民事再生を申し立てたが、太平洋クラブから出された再生案は太平洋クラブをアコーディア・ゴルフに売り渡すというものであった。東急不動産は損失を被らず、太平洋クラブ会員ばかりが犠牲になる。東急不動産だまし売り裁判と同じ搾取の構造である(林田力『東急不動産だまし売り裁判こうして勝った』)。

太平洋クラブ会員らは東急不動産から自らの権利を守るために「太平洋クラブ被害者の会」「太平洋クラブ会員の権利を守る会」などの被害者団体を結成した。被害者の会では渋谷で東急不動産への抗議デモ行進も企画しているという(太平洋クラブ被害者の会オフィシャルサイト「被害者の会からのご報告」2012年5月30日)。会員の間では東急不動産への怒りは大きく、刑事告訴の動きもある。

太平洋クラブは配当率の引き上げを含む再生計画案の変更によって、再度の債権者集会開催を求め続行手続の申し立てをしたが、東京地方裁判所民事20部は棄却した。民事再生手続の廃止を決定した。太平洋クラブの再建案に反発する西村國彦弁護士ほか3名は9月28日、東京地裁民事8部に会社更生法の適用を申請した。

会社更生手続を管轄する民事8部は、民事再生手続を管轄する民事20部に対し、再生手続の中止命令を出すことができる。太平洋クラブも民事再生廃止決定を受け、10月3日夕刻に会社更生法適用を申請、即座に保全管理命令を受けた。

これによって東京地方裁判所が選任した保全管理人・永沢徹弁護士に太平洋クラブの経営権、財産管理権の全てが移行した。東急不動産の支配下で任命された現経営陣が排除されたことは、太平洋クラブ会員の権利保護にとって大きな前進である。会員主導による会社更生手続きによる再建を期待する。

ゴルフタイムスは再生計画案否決を以下のように祝福する。「長い過去のゴルフ場破綻事件において、これほど、会員が団結をして、傀儡経営会社に抵抗して現民事再生計画案を否決打破して、大手のゴルフ場経営を粉砕した例はありません。」


林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』

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林田力『東急不動産だまし売り裁判 こうして勝った』
東急不動産(販売代理・東急リバブル)から不利益事実を隠して問題物件をだまし売りされた著者(=原告)が消費者契約法に基づき売買契約を取り消し、裁判で売買代金を取り戻した闘いの記録(ロゴス社、2009年7月1日発行)。
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