東急不動産の遅過ぎたお詫び「和解成立」後も続いたトラブルの顛末初出:林田力「東急不動産の遅過ぎたお詫び」オーマイニュース2007年10月9日東急不動産株式会社(東京都渋谷区、植木正威社長)は自社ウェブサイトに以下の「お詫び」を掲載した(東急リバブル株式会社のウェブサイトにも同種の「お詫び」が掲載されている)。私は2007年10月に入って確認した。 「弊社が平成15年(2003年)に江東区内で販売致しましたマンションにおきまして、北側隣地の建築計画に関する説明不足の為にご購入者にご迷惑をおかけした件がございました。本件を踏まえまして社内体制を整え、再発防止及びお客様へのより一層のサービス提供を行なってまいる所存でございます」 これは東急不動産(販売代理:東急リバブル)が江東区東陽で販売したマンション「アルス東陽町」301号室を指す。 販売時に不利益事実(アルス東陽町竣工後に隣地を建て替えること、作業所になるので騒音が発生すること)を説明しなかった。東京地裁2006年8月30日判決は東急不動産の消費者契約法第4条第2項違反(不利益事実不告知)を認定し、売買代金全額2870万円の返還を命じた(平成17年(ワ)第3018号)。そして東京高裁において一審判決に沿った内容の訴訟上の和解が成立した(参照「東急不動産の実質敗訴で和解」)。 しかし訴訟上の和解成立後も、紛争は再燃した(参照「東急不動産、『和解成立』後も新たなトラブル」)。 アルス301号室の所有権移転登記の方法を巡って対立したのだ。アルス301号室の売買契約が消費者契約法に基づき取り消されたため、その所有権を被害者(=記者・林田)から東急不動産に戻さなければならない。被害者側は登記原因を和解調書記載の通り「訴訟上の和解」として、和解調書に基づき東急不動産が単独申請することを主張した。 これに対し、東急不動産は和解調書を使わず、東急不動産が用意した司法書士を使って被害者と東急不動産で共同申請することを要求した。具体的には東急不動産が用意した司法書士に被害者が実印を押した委任状を提出することを要求した。 被害者が拒否すると、東急不動産は和解調書で定められた金銭の支払いを拒否した(2007年3月28日)。その後、東急不動産は4月2日に東京法務局に3000万円を供託した(平成19年度金第252号)。 被害者側は2007年5月13日、東急不動産に内容証明郵便を送付し、和解調書に基づく金銭支払いを請求し、合わせてブローカーが勤務先に圧力をかけさせることの停止を要求した。これに対し、東急不動産は「回答書」(2007年5月18日付)で全面的に拒否したが、その理由が問題であった。 東急不動産は「被害者の代理人弁護士が供託金の受け取りについて法務局と相談し、それを受けて東急不動産代理人弁護士と折衝中」であることを拒否の理由とし、被害者の弁護士が東急不動産の要求に従って供託金を受け取る方向で折衝している、と主張したのだ。 これは完全な虚偽であった。被害者は裁判時には弁護士を訴訟代理人としていた。しかし、東急不動産が回答書を送付した当時、委任関係にはなく、東急不動産の弁護士と折衝した事実もない。 被害者が直接弁護士に確認すれば直ぐに露見する虚偽を回答した東急不動産の真意は不明である。 話し合いによる任意的解決を潰すことが目的であったならば、その狙いは奏効したと言える。してもいない折衝をしていると言われれば弁護士が怒るのは当然であり、弁護士間で話し合いして解決するという可能性を完全に絶つことができる。 任意的解決の可能性が消滅したため、被害者は監督官庁である東京都都市整備局に申し出た。東京都の行政指導によって、東急不動産は態度を翻した。 所有権移転登記は、登記原因を、和解調書に定められた「訴訟上の和解」とし、東急不動産が和解調書に基づき単独申請した。東急不動産は供託金を自ら取り戻した上で、三井住友銀行深川支店において被害者側に現金で金銭を支払った(6月28日)。 問題マンションの販売だけでなく、和解調書の履行においても東急不動産の誤りが示されたことになる。 冒頭で紹介したホームページの「お詫び」についても、この文脈で捉えたいが、理解できないのは2007年10月1日という掲載時期である。被害者が騙し売りを認識して東急リバブルに照会したのが2004年8月であり、大きく遅れた「お詫び」である。多くの企業不祥事では遅すぎる対応が不祥事そのものと同じくらいの非難を浴びているが、東急不動産のマンション販売トラブルにも同じことが言える。 しかもタイミングも不明である。契約解除の意思表示を通知したのが2004年11月、消費者契約法に基づき売買契約を取り消したのが2004年12月、東急不動産を提訴したのが2005年2月、東急不動産敗訴判決が出たのは2006年8月、訴訟上の和解が成立したのは2006年12月、東急不動産が売買代金返還金を支払ったのが2007年6月と節目の時期は色々あるが、それらとは全く無関係な時期である。 和解調書の履行が全て完了した訳でもない(所有権移転登記を巡るトラブルで中断したために、アルス301号室の明け渡しが遅れている)。被害者にとってはありがたみ味が全くない「お詫び」である。 東急不動産から被害者に対して直接「お詫び」が示されたことは一度もなく、また、ホームページへの「お詫び」掲載について事前にも事後にも説明や連絡がなされたこともなかった。的外れな時期に東急不動産が「お詫び」を掲載した真意は不明だが、少なくとも被害者と向き合うためにした訳ではないことは確かである。 ![]() ![]() |
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