『リケイ文芸同盟』

林田力

向井湘吾『リケイ文芸同盟』(幻冬舎、2015年)は理系の編集者が理系であることを活かして、ミリオンセラー文芸書を出版しようと悪戦苦闘する物語である。主人公は文芸書編集部の文系思考について行けずに苦しむ。価値観のギャップ、衝突、相互理解が面白い。

但し、文系や理系をステレオタイプに位置付けすぎている。主人公は理系であることを意識しすぎている。主人公にとって否定的要素を文系の特徴としているだけのようなところもある。規則に縛られる杓子定規さを文系の特徴とするが、文系からすれば融通がきかない杓子定規さは理系の特徴と思える。

本書を小説の形を借りた文系論・理系論と捉えるならば異論反論が出るだろう。文系の人は文系が貶められていると感じるだろうし、理系の人も真の理系は主人公のような偏狭さはないと言いたくなる。

主人公は自己をバリバリの理系人間と位置付け、文系的思考にギャップを感じているが、主人公自身が考えるほど合理主義的ではない。主人公が感じるギャップは理系と文系のギャップというよりも、市民感覚とブラック企業的体質とのギャップに近いものもある。それを理系と文系の差異で説明するならば的外れになる。

また、主人公も非合理である。自主的に終電まで残業するモーレツ社員的な面がある。終電で帰宅するよりも会社の近くに泊まった方が休めるとわかっていながら、通勤電車で帰宅する。『銀河英雄伝説』のヤン・ウェンリーのように給料分だけ働くという発想ではない。文系理系で職業観を分析することは無理なのではないだろうか。主人公が感じるブラック企業体質への怒りは共感するが、理系文系の相違を背景にした話ではない。

理系文芸同盟の相棒の嵐田も理系という設定であるが、理系というよりも体育会系的な性格である。嵐田が数学に惹かれたエピソードも人文科学的と言ってもいい。

そもそも文系理系の分類は大学受験生までのものである。大学では自然科学、社会科学、人文科学に分ける方が普通である。高卒や大学中退者を含む広い読者層には文系理系の分類が分かりやすいが、自己の専攻に人一倍こだわりを持ち、大学で真面目に勉強したであろう主人公が文系理系の二分法ではリアリティーが弱まる。

このように本書は文系論・理系論としては疑問があるが、それは本書の弱点ではない。本書のタイトルが理系文芸同盟ではなく、リケイ文芸同盟となっていることには理由がある。最後まで読めば理解できるという味な仕掛けになっている。

本書は、異なる価値観の世界で自己の個性を活かしつつ、他者を尊重することを是とする物語である。理系文系は分かりやすいカテゴリーとして使われたもので、価値多元主義を楽しむ物語である。価値多元主義の敵は文系理系という区分とは別次元のもので、一つの考えが唯一絶対というようなカルト集団やブラック企業のような偏狭な独善である。

本書は東日本大震災後の作品である。本書には東日本大震災の影響がある。東日本大震災は日本人の精神世界に大きなインパクトを与えた出来事であると再確認した。東日本大震災からの復興は忘れてはいけない日本社会の最優先の課題である。



林田力

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