『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか？』

林田力

上阪徹『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか？』（あさ出版、2014年）は成城石井の人気の秘密に迫った書籍である。成城石井は高級スーパーと言われながら、売上を伸ばし、出店を増やしている。そこには一般的な経営常識とは真っ向から対立する企業姿勢がある。「儲けよう」とは考えない、効率は一切無視する、全店共通のマニュアルは作らないなどである。

成城石井の取り組みは、ワタミやマクドナルドなどデフレ経済の勝者と見られていたチェーン店が失墜する中で重要な事例である。東急ストアでは店員が果物を口にくわえる不衛生な写真をTwitterに投稿し、炎上するバカッター事件が起きた（林田力『東急ストアTwitter炎上』Amazon Kindle）。本書は東急ストア・バカッター事件との意識の違いを見せつける。

著者は世田谷区成城在住であり、「成城での生活を始めるにあたり、真っ先に入ることになったお店が、成城石井でした」と語っている。本書はビジネス書に分類されるが、消費者の視点を出発点としている。これは東急不動産消費者契約法違反訴訟原告として好感が持てる。

本書は2014年6月の刊行である。その後の9月30日にローソンが成城石井を買収すると発表した。この買収には以下のように成城石井の強みを潰す危険性も指摘されている。「大きなアップサイドがある半面、やり方を一つ間違えて、ローソンの論理を振り回してやれば成城石井の利益を吐き出すだけで終わってしまうだろう」（大前研一「ローソンの成城石井買収に潜むワナ、高級スーパーがコンビニ化する？」日経BPネット2014年10月15日）。買収後も成城石井がユニークさを維持できるかにも注目したい。

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